人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「感傷旅行」田辺聖子

「感傷旅行」の最後の解説は、野坂昭如さんが書いています。


田辺さんのこと
はじめて、田辺聖子さんに、おめもじかなったのは42年、春で
朧ろの御縁日、神戸三宮は、生田神社宵宮の夜だった。
ぼくは神戸育ちで、生田さんは氏神でこそなけれ、緑の深い
お宮、アメリカとの戦争がはじまるまで、その祭礼には欠かさず
お参りというよりは、境内に集う出店の華やかな色どりに惹かれて、
足ふみ入れたもので、以来、25,6年ぶりのこと。
ぼくは、ひどくなつかしく、夜店をきょろきょろながめ歩き、
そして田辺さんは、神戸に移り住まれてからの日は浅いにしろ、
やはり地元だから、いちいち説明してくださり、その声がまた
いちだんと、わが心にせつなくしみ入るのだ。
以前の追憶をどうまさぐってみても、男女不同席の時代だったし
女の子と祭りの夜、そぞろ歩いた甘美な思い出などない。
しかし、常にそうねがってはいたので、むしろぼくは、
新しく造築されてけばけばしい宮居ぶり、また、
とげとげしい感じの、夜店のたたずまいには、すぐ以前と
形こそ似ていても、まったく別物であると、興ざめしつつ、
しかし、ようやく女の子と、宵宮の、ゆえ知れぬたかぶりの中を、
歩くことができたと、まるで夢心地だった。
そしてぼくが、いちいち小姑風に、夜店の駄菓子やがらくた玩具の
値の高いことや、おぞましい色合いに文句をつけると、
「しゃあないやないの、時代がちがうねんもん。
これはこれで、今の子供には、ほっこり楽しいねんから」
やさしく教えさとされ、その口調がしごく甘くて、こういういい方は、
女性に失礼だけれど、お姉さんご一緒にいるような、安心感に
包まれ、ぼくは美しい姉とともに、餓鬼大将のそばを通りすぎて行く、
あの意気地なしの少年の、誇らしい気持をしみじみ味わったのだ。
             |
             |
生田神社の夜以後、何度か田辺さんと、一緒にお酒を飲み、いつも
田辺さんは、少しばかり度をすごした僕の、神戸執着ぶりを、
せいぜいなだめるように、実に適格に、戦前のそのたたずまいを、
捜しあてては、「遠洋航路に乗ってはった、コック長さんの店
やねん」などとおっしゃりつつ、豪華なご馳走を、ふるまってくださる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

戦前と戦後のたたずまいの違う生田神社を想像し、
やっぱり今の生田神社の夜も繁華街の中のきらびやかな
雰囲気を持った神社だと思い返します。

野坂さんの時代では、生田神社は「恋愛の神様」で
有名になるとは思いもしなかったでしょうね。(*^^*)


by kobeport | 2022-10-14 08:44 | 小説に出てきた「神戸」 | Comments(0)